【ここで学べること】
・植え込み時のトラブル
・観察項目と対処方法
急性期合併症
手術後24時間以内に発症する合併症のことです。
急性期合併症には感染や出血などの創部合併症や心筋梗塞や心停止などの心臓血管合併症などがあります。
予防として術前の十分な検査や術後の経過観察が大切になります。
ここでは、急性期合併症の植え込み時の説明していきます。
植込み時のトラブル
気胸
鎖骨下静脈穿刺の時やリードスクリューの心外突出により胸膜を穿孔することで生じます。
呼吸困難、咳嗽、胸痛、胸部違和感などの胸部症状に加え、SpO2の低下がみられます。無症状のときもありますが、穿刺時にエアーが引けてきたときは要注意です。
術中では透視で肺が虚脱していないかの確認をし、万が一肺虚脱を起こしていたら胸腔ドレーンを行う必要があります。
絶対に気胸の状態で手技を続行してはいけません。
血胸
穿刺時に鎖骨下動静脈や肋間動静脈などの周辺動静脈を損傷してしまうことにより生じます。
気胸と同様の症状に加え、Hbの低下や出血性ショックの症状が出ます。
胸部X線やCTによって診断され、軽度の場合は経過観察、重症の場合は胸腔ドレナージや血管塞栓術を行うことがあります。
Hbが下がるようであれば輸血を考慮する必要があります。
動静脈癭
静脈に穿刺するはずが、動脈を穿刺してしまうことで動静脈癭(動静脈間に血流の短絡)が生じます。
静脈造影時に動脈が造影されることで発見されます。
静脈穿刺時にシリンジへの逆血確認の際に動脈血がかえってくることや、逆血で拍動が確認されたり、ガイドワイヤーの走行が動脈の走行であったりなどでも発見されます。
動脈穿刺や動静脈癭が確認された場合は5~10分の用手圧迫を行い、重度の場合は血管塞栓術を行います。
静脈痙攣
血管攣縮(スパズム)と呼ばれ、穿刺を頻回に繰り返すことにより血管腔が狭くなり穿刺がさらに困難になります。
静脈造影により血管径が細くなることが確認できます。
軽度の場合は経過観察で治るが、長時間軽快しない場合はプロスタグランジンなどの血管拡張薬を投与する必要があります。
不整脈の発生
穿刺後のガイドワイヤーやペーシングリードが心房、心室内の壁に当たることで期外収縮の波形が出ます。
心臓はそれを自己波形と誤判断して拍動しなくなり徐脈や心停止にいたることがあります。
ガイドワイヤー挿入時やペーシングリード挿入時は必ずモニターを確認することが大切で
また、心停止に至る可能性があるため近くに除細動器やテンポラリーを近くに置いておくことが大切です。
モニターの波形も大事ですが、モニター音に耳を傾けてみるのもポイントです!
心裂孔・心タンポナーデ
リード操作やスクリューインの際に心内膜損傷を起こしてしまい、心裂孔や心タンポナーデになることがあります。
心タンポナーデの場合、胸部症状や頻脈、過呼吸、脈圧の低下、吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下する奇脈が見られます。また、診断にベックの三徴(血圧低下、頸静脈怒張、微弱心音)があります。
心タンポナーデが起こったときは心嚢ドレナージを心裂孔の場合は外科的処置が必要となります。
静脈裂孔
リード操作により静脈を損傷してしまうことです。
上大・下大静脈、静脈角(左鎖骨下静脈とない頸静脈の合流点)などの大血管損傷により出血性ショックを引き起こします。
損傷してしまい出血性ショックに陥る可能性がある場合は開胸での外科的処置が必要になります。
空気塞栓
穿刺針やシースから空気が静脈内へ入り込むことで起こります。
静脈圧が低い状況で発生しやすく、術前に十分な輸液を行う、術中では頭部を下げる、足を挙げるなどの予防策があります。
胸部違和感や神経症状に注意しておく必要があります。
リード損傷
リードやスタイレット操作、リード固定時の糸固定などでリード本体(被覆材や導線)に損傷を与えてしまうことです。
目視での確認や透視下でリード損傷に気づくことができ、またリード測定時の抵抗値に異常が出るため、チェック時気づくことが多いです。
リード抵抗の異常は損傷だけでなく、リードディスロッチの可能性もあるため注意が必要です。
リード接続ミス
心房と心室リードの逆接続、リードディスロッチ、固定ネジの締め忘れや締め不足により接続ミスにつながります。
これらは異常な作動やツイッチングを起こす原因になります。
本体とリード接続後は目視や設定通りの作動かを確認すること大切です。
透視下で本体をみることが一番の確認方法です。
植込み直後のトラブル
植え込み部の皮下血種
抗凝固薬の再開や術中の止血が不十分により皮下ポケット内に血液が貯まる状態です。
ポケット内感染につながる要因になります。
皮下血種になると創部が腫れ、硬くなり、発赤や変色が見られます。痛みを伴うこともあります。
軽度の場合は止血のため圧迫を継続し、重度の場合は穿刺による血腫除去や開創しての血腫除去、止血術を行います。
刺激閾値上昇
術中チェックでの閾値テストでは許容範囲内の値であったにもかかわらず、留置部位の炎症反応により術後閾値が上昇してしまうことがあります。
現在のリード電極の先端には薬剤(ステロイド)が溶出される構造になっているためまれですが、ペーシング不全を防ぐために出力を一時的にあげる必要があります。
出力を上げても心筋を捕捉できない場合は再留置が必要です。
電極位置移動・脱落(dislodge)
術後の体動や乳房の重さによりリードが引っ張られ電極の位置が移動したり、脱落(dislodge)します。
モニター波形や術後レントゲンで発見されることがあるため退院までは注意が必要です。
本体留置側の腕を肩の高さ以上に上げてしまうことで本体とリードが引っ張られることもあるため、患者指導も大事になります。
横隔膜刺激(twitching)
人体の構造上心臓の横を横隔神経が走行しているため、リード先端の刺激が横隔神経を刺激して「しゃっくり」に似た症状が出ることです。
術中であれば留置位置の変更を、術後であれば出力の変更もしくは極性を変更してみる方法があります。
大胸筋攣縮
ユニポーラペーシングにより発生しやすいが、ルーズピンやリード被膜材損傷による絶縁体不良が原因で発生することもあるため注意が必要です。
出力の変更や極性の変更など設定を見直すと改善することがあります。
まとめ
植え込みデバイスを入れられる方の多くは高齢の方です。合併症を機に状態が悪くなったり最悪の場合も想定されます。
広い視野と適切な対処方法を身に着けておくことがとても重要になります。
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